INTRODUCTION

イントロダクション

リチャード・リンクレイター監督が12年の構想期間を経て描く、“50才のスタンド・バイ・ミー”悲劇がもたらした旅が再び人生を輝かせる。感動のロードムービーが誕生

かつてベトナム戦争に従軍し、痛みを分かち合った気の置けない仲間たち。30年前に起きた事件をきっかけに大きく人生が変わった三人。すっかり酸いも甘いも噛み分けた大人となり、それぞれの道を歩む旧友にして悪友の三人組は、仲間に起きた悲劇をきっかけに、海の向こうでイラク戦争が行われている時代に30年ぶりの再会を果たし、親友の息子の遺体を連れ帰る旅に出る――。
ふたつの戦争で刻まれた喪失感。しかし心の殻を一枚ずつ剥いでくれる仲間との旅が、30年前の“ある事件”によって傷つけられた心を再生させ、再び人生が輝き出す姿が描かれる。
『6才のボクが、大人になるまで。』で世界中の賞を席巻した名匠、リチャード・リンクレイター監督が贈る感動のロードムービーが誕生した。

監督のリチャード・リンクレイターは、2005年に刊行された原作小説を読んで以来、この企画を12年間も温め続けていた。原作者のダリル・ポニックサンは、アメリカン・ニューシネマの傑作『さらば冬のかもめ』(73年)の原作小説でも知られるベテラン作家。
今回の脚本はリンクレイターとポニックサンが共同で手掛け、過去と現在の戦争の苦しみに向き合いつつ、ユーモアに満ちた仲間との交流の旅が、空っぽの心を埋めていく温かい友情の物語を作り上げた。
キャストには主人公の三人組と作品の魅力を伝える最高の布陣がそろった。穏やかな家庭人として成熟しながらも、妻と息子、大切な家族を相次いで失ったドク役に、『フォックスキャッチャー』(14)で第87回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたスティーヴ・カレル。ワイルドで冗談好きの明るいバー経営者ながら、一方で荒んだ酒びたりの日々を送るサル役に、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(15)で第88回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたブライアン・クランストン。敬虔な神父として聖職者の任を務めつつ、実は荒くれで向こう見ずだった青春時代の過去を持つミューラー役に、『TINA ティナ』(93)で第66回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたローレンス・フィッシュバーン。いずれもオスカー候補や数々の受賞歴を持つ名優たちが集まった。

クランクイン前、LAで三週間に渡ってリハーサルが行われた

30年振りの再会にも関わらず、一瞬で昔の関係を取り戻した三人は旅の間ずっと語らい続ける。この三人のキャラクターのやり取りや関係性の中で、昔からの友人だという親密な感覚をリアルに醸し出すことができれば、きっと観客も映像の中の出来事を真実だと信じてくれるだろう。そう考えたリンクレイター監督は、撮影前にロサンゼルスに出演者たちを集め3週間に渡ってリハーサルを敢行した。この期間は、出演者たちが互いのことを深く知り、現実の関係でも絆を作るプロセスとして大きな役割を果たした。
3週間に渡って名匠と名優たちが机を囲んで脚本の本読みをした日々を、「みんなとの時間はとても楽しかった」とスティーヴ・カレルは嬉しそうに述懐する。ブライアン・クランストンはこう語る。「リンクレイター監督は出演者たちをどこまでも信頼し、自由にさせてくれた。そうして僕らは自分の不安や願望、キャラクターの目標について率直に意見を言い合ったんだ。」
このリハーサル期間中、リンクレイター監督は役者たちのコミュニケーションから生まれてくるものを柔軟に反映させながら、脚本を何度も書き直した。築き上げられた三人のリアルな絆は、完成した映画からも本当によく伝わってくる。

エンドロールを飾る、ボブ・ディランの歌声 乾いた心に優しい涙が染み渡る

心にポッカリ穴が空いたとき、主人公のドクが求めたのは配慮のある優しさではなく、時としてマナーを無視してまでも率直に踏み込んでくれる本物の友情だった。社会的な地位や肩書きなどに縛られない、若い頃の友人。悪ガキに戻ったオヤジたちは、時にくだらないジョーク連発の馬鹿話に興じながら、棺を車や列車に乗せ、初めての携帯電話なども購入し、アメリカ東部を渡っていく。この映画では『ビフォア』シリーズや『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(16)など他のリンクレイター監督作品と同じく、回想形式は一切使われない。ひたすら現在進行形で物語は進んでいく。いっとき辛い現実から離れて旧い友人との時間を過ごすことで、人生の再生や回復のきっかけへと向かう彼らの姿は、“孤独”が広がり、誰もが他人に言えない虚しさや痛み、悲しみを抱え込んで生きているこの日本においても、国の違いを超えて共感を呼び、気取らない優しさで心を解放してくれるだろう。
エンディングに流れるボブ・ディランの名曲「Not Dark Yet」が余韻を一層深めている。

STORY

ストーリー

妻に先立たれたドクは、
戦死した息子を連れ帰る旅に
30年間音信不通だった友を誘った。
語り合い、時に笑い合いながら続く
古い友との旅で、
3人の人生が再び動き出す

男一人、酒浸りになりながらバーを営むサル(ブライアン・クランストン)と、破天荒だったミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)の元に、30年間音信不通だった旧友のドク(スティーヴ・カレル)が突然現れる。
2人にドクは、1年前に妻に先立たれたこと、そして2日前に遠い地で息子が戦死したことを2人に打ち明け、亡くなった息子を故郷に連れ帰る旅への同行を依頼する。
バージニア州ノーフォークから出発した彼らの旅は、時にテロリストに間違われるなどのトラブルに見舞われながら、故郷のポーツマスへと向かう――。
30年前に起きた悲しい出来事をきっかけに出た再会の旅。語り合い、笑い合って悩みを打ち明ける旅路で、3人の人生が再び輝き出す。

STORY

ストーリー

スティーブ・カレル(ラリー・”ドク”・シェパード)

1962年、マサチューセッツ州コンコード生まれ。
コメディ・セントラル放送のエミー賞受賞シリーズ「ザ・デイリー・ショー」(96~)の特派員役で、最初に注目を集めた。そののち、エミー賞候補となったNBC放送のコメディシリーズ「ザ・オフィス」(05~13)で製紙会社の横柄なマネージャー、マイケル・スコットを8年間演じて人気を博した。この演技でゴールデングローブ賞TVミュージカル/コメディシリーズ部門最優秀男優賞を受賞。
世界中でセンセーションを巻き起こした『40歳の童貞男』(05)で初めて長編映画の主人公を演じた。この作品では監督のジャド・アパトーとともに脚本も書き、二人は全米脚本家組合(WGA)賞の最優秀オリジナル脚本賞にノミネートされた。
ベネット・ミラー監督の『フォックスキャッチャー』(14)で、米アカデミー賞とゴールデングローブ賞の最優秀主演男優賞にノミネート。
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15)では実在のヘッジファンド・マネージャーのマーク・バウムを演じ、ゴールデングローブ賞にノミネート。ほかの出演作に『俺たちニュースキャスター』(04・未)と続編『俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』(13・未)、『ゲット スマート』(08)、『ラブ・アゲイン』(11)、『エンド・オブ・ザ・ワールド』(12)、『31年目の夫婦げんか』(12)、『俺たちスーパーマジシャン』(13・未)、『プールサイド・デイズ』(13・未)、『アレクサンダーの、ヒドクて、ヒサンで、サイテー、サイアクな日』(14・未)、『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』(15)、『カフェ・ソサエティ』(16)など。
2017年秋には、エマ・ストーンと共演する『Battle of the Sexes』が全米公開された。待機作には『Beautiful Boy』などがある。
アニメ『怪盗グルーの月泥棒3D』(10)では主人公グルーの声を担当。世界中でスマッシュヒットを記録し、続編『怪盗グルーのミニオン危機一発』(13)と『怪盗グルーのミニオン大脱走』(17)でもグルーの声を担当。
また女優で妻のナンシー・カレルとともにTBS放送のポリスコメディシリーズ「Angie Tribeca」(16~)のクリエイターを務めた。自身は製作総指揮/脚本/監督も担当。現在は妻とともにロサンゼルス在住。一男一女の自慢のパパである。

ブライアン・クランストン(サル・ニーロン)

1956年、カリフォルニア州ハリウッド生まれ。
警察官になることを志していたが、短大在学中に俳優志望に転向し、舞台で俳優デビュー。
AMC放送のTVシリーズ「ブレイキング・バッド」(08~13)のウォルター・ホワイトの演技で、エミー賞4回、SAG賞4回、ゴールデングローブ賞1回を受賞。ケーブルTVシリーズで初めて、そしてすべてのTVシリーズで二番目に、3年連続してエミー賞を受賞した俳優となった。プロデューサーとしてもこのシリーズで、エミー賞最優秀ドラマシリーズ賞2回、全米製作者組合(PGA)賞最優秀ドラマシリーズ賞を1回受賞している。また「ブレイキング・バッド」の3エピソードとABC放送シリーズ「モダン・ファミリー」の2エピソードを監督し、2013年と2014年に全米監督協会(DGA)賞にノミネートされた。
映画では、ジェイ・ローチ監督の『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(15)で実在の伝説的な脚本家、ダルトン・トランボを演じて絶賛され、米アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、SAG賞、英アカデミー(BAFTA)賞、放送映画批評家協会賞の最優秀主演男優賞にノミネートされた。
舞台では「All the Way」でジョンソン大統領を演じ、2014年のトニー賞を受賞。その舞台劇を映画化したTV映画「オール・ザ・ウェイ JFKを継いだ男」(16)では、自身の製作会社ムーンショット・エンターテイメントを通して製作も担当。この作品はエミー賞8部門にノミネート。また、彼自身はこの演技でゴールデングローブ賞候補となり、SAG賞TV映画・ミニシリーズ部門最優秀男優賞を受賞した。
ほかの出演作に『すべてをあなたに』(96)、『プライベート・ライアン』(98)、『リトル・ミス・サンシャイン』(06)、『リンカーン弁護士』(11)、『幸せの教室』(11)、『コンテイジョン』(11)、『ドライヴ』(11)、『トータル・リコール』(12)、『アルゴ』(12)、『GODZILLA ゴジラ』(14)、『潜入者』(15)、『パワーレンジャー』(17)などがある。また、ドリームワークス・アニメーションのアニメ『マダガスカル3』(12)や『カンフー・パンダ3』(16・未)で声の出演をしている。

ローレンス・フィッシュバーン(リチャード・ミューラー牧師)

1961年、ジョージア州オーガスタ生まれ。ニューヨークにて育つ。
10歳の時にTVシリーズ「One Life to Live」(68~13)に出演し、18歳で『地獄の黙示録』(79)に若い兵士タイロン・“クリーン”・ミラー役で出演。
以来、舞台・映画・TVで多彩な演技を披露し、多くの賞を受賞してきた。「Two Trains Running」(92)でトニー賞を受賞。TVシリーズ「Tribeca」のエピソード「The Box」(93)の演技でエミー賞を受賞。また、『TINA ティナ』(93)で演じた実在のミュージシャン、アイク・ターナーの演技で米アカデミー賞最優秀男優賞にノミネートされた。1997年には、製作総指揮も兼ねたTV映画「ミス・エバーズ・ボーイズ~黒人看護婦の苦悩」の演技でエミー賞にノミネートされ、全米黒人地位向上協会(NAACP)イメージ・アワードを受賞。NAACPイメージ・アワードには18回ノミネートされ、ABC放送シリーズ「Black-ish」(14~)での演技を含め5回受賞している。
最もよく知られているのは、ウォシャウスキー姉妹監督の大ヒット作『マトリックス』三部作(99~03)で演じたモーフィアス役だろう。ほかの出演作に『カラーパープル』(85)、『キング・オブ・ニューヨーク』(90)、『ボーイズ’ン・ザ・フッド』(91)、『ディープ・カバー』(92)、『ボビー・フィッシャーを探して』(93)、『ハイヤー・ラーニング』(95)、『ミスティック・リバー』(03)、近作には、大ヒット作『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(16)、『パッセンジャー』(16)など。A&E放送のTV映画「ROOTS/ルーツ」(16)ではエミー賞最優秀ナレーター賞にノミネート。またBET放送のミニシリーズ「Madiba」(17)では、ネルソン・マンデラを演じている。
2000年に、長年のマネージャーであり製作パートナーでもあるヘレン・サグランドとともに自身の会社シネマ・ジプシー・プロダクションズを設立した。
1996年より、ユニセフ大使としても活動している。2007年、アメリカおよび世界における舞台芸術への優れた貢献と人道的貢献を称えられ、ハーバード大学より“アーティスト・オブ・ザ・イヤー”を授与された。

J・クィントン・ジョンソン(ワシントン)

テキサス大学の演劇プログラムに出演しているところをリチャード・リンクレイター監督に見出され、『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(16)でプロの俳優としてデビューした。次に、ABC放送が『ダーティ・ダンシング』(87)をリメイクしたミュージカル「Dirty Dancing」(17)にサラ・ハイランドが恋心を抱くマルコ役として出演。AMC放送シリーズ「The Son」(17~)ではネプチューン役で何度も出演し、ピアース・ブロスナンと共演している。
2017年にはブロードウェイのスマッシュヒットミュージカル「Hamilton」にも出演した。

STORY

ストーリー

リチャード・リンクレイター(監督/脚本)

1960年、テキサス州ヒューストン生まれ。
サム・ヒューストン州立大学で学んだあと、100人のキャラクターの24時間を中心に展開する実験的な作品『Slacker』(91)を監督して注目される。青春映画の名作『バッド・チューニング』(93)、ベルリン映画祭銀熊賞最優秀監督賞を受賞した『恋人までの距離(ディスタンス)』(95)、米アカデミー賞最優秀脚色賞にノミネートされた『ビフォア・サンセット』(04)、そして英アカデミー(BAFTA)賞やゴールデングローブ賞Ⓡの最優秀作品賞を受賞し、パトリシア・アークエットが米アカデミー賞最優秀助演女優賞を獲得した『6歳のボクが、大人になるまで』(14)といった優れた作品を生み出してきた。
また、西部劇ギャング映画『ニュートン・ボーイズ』(98)、アニメ『ウェイキング・ライフ』(01)、リアルタイムドラマ『テープ』(01)、ヒットコメディ『スクール・オブ・ロック』(03)、そして『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(16)など、インディペンデントとハリウッドメジャーを往来しながら様々なジャンルの映画に挑戦している。
ほかの監督作に『がんばれ!ベアーズ ニュー・シーズン』(05)、『スキャナー・ダークリー』『ファーストフード・ネイション』(共に06)、ドキュメンタリー『Inning by Inning: A Portrait of a Coach』(08)、『僕と彼女とオーソン・ウェルズ』(08・未)、『バーニー/みんなが愛した殺人者』(11)、『ビフォア・ミッドナイト』(13)などがある。TVでは、旅行シリーズ「Up to Speed」(12)のクリエイターと監督を務め、前述『スクール・オブ・ロック』のTVシリーズ「School of Rock」(16~)の製作総指揮を担当している。
世界中の映画を観てもらうために、1985年に自身が創立したオースティン・フィルム・ソサエティー(AFS)の芸術監督を務めている。現在、アメリカでトップの映画団体の一つとなったAFSは、年間数百本の映画を上映し、教育プログラムを運営し、1996年より、テキサスのフィルムメイカーたちに150万ドル以上の補助金を交付している。

ダリル・ポニックサン(脚本/原作)

1938年、ペンシルベニア州の無煙炭鉱山の町シェナンドー生まれ。
著名な小説家であり、映画/TVの脚本家でもある。本作の原作「Last Flag Flying」など、自身の名前で9冊の小説を出版し、ペンネームのアン・アーギュラの名前で4冊の本を出している。
コーネル大学で修士号を取得後、ニューヨーク北部にある高校で3年間英語の教師をしていた。その後、米海軍に入隊し、揚陸隊の一員として多くの時間を海で過ごした。海軍を除隊したのち、初めての小説「The Last Detail」(70)を出版。これはハル・アシュビー監督、ジャック・ニコルソン主演によって『さらば冬のかもめ』(73)として映画化された。
脚本家としては、『シンデレラ・リバティー/かぎりなき愛』(73)、『タップス』(81)、『ビジョン・クエスト/青春の賭け』(85)、『ナッツ』(87)、『THE BOOST/引き裂かれた愛』(88)、『青春の輝き』(92)、『ランダム・ハーツ』(99)などの映画作品や、TV映画「The Girl Called Hatter Fox」(77)や「The Enemy Within」(94)、TVシリーズ「The Mississippi」(82~84)といった作品を担当している。
前述『シンデレラ・リバティー/かぎりなき愛』で全米黒人地位向上協会(NAACP)イメージ・アワードを受賞。また、アン・アーギュラとして書いた小説「Homicide My Own」ではエドガー賞にノミネートされた。
2度目の妻シー・シー・ラモスとの間に、子供が二人と孫が二人いる。カリフォルニア州ソノマとパームスプリングスを行き来して活動している。

PRODUCTION NOTES

プロダクションノート

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2005年に出版された小説の感動が
リチャード・リンクレイター監督を動かした

リチャード・リンクレイター監督は、1973年に高評価を受けた映画『さらば冬のかもめ』の原作となった小説「The Last Detail」を書いた原作者ダリル・ポニックサンの2005年の小説「Last Flag Flying」を初めて読んだ時の感動を、今でも鮮烈に覚えている。
原作を読んで『これは凄い映画になる』とすぐに思いました。当時、その時点でイラク戦争はすでに大失敗だということが明確になっており、この小説はベトナム戦争とイラク戦争との関連性を繰り返し強調していました。特に私が共鳴したのは、ドクとサルとミューラーという三人のキャラクターの魅力です。私は彼らが大好きになり、ベトナム戦争の退役軍人の中年トリオを描き出すために、彼らの人生を掘り下げたいと思ったのです」

当初、リンクレイター監督は2006年に映画化を果たすため、原作を脚色しようと試みたが、2005年を舞台にしたその最初のバージョンはうまくいかなかった。「タイミングが合わなかった」とリンクレイター監督は振り返る。「私はダリルに『この映画は必ずいつか戻ってくる』と説得したのを覚えています」

アマゾン・スタジオ製作で企画が動き出し、
アカデミー主演男優賞ノミネート経験を持つ名優たちが集まった

そうして今から数年前、リンクレイター監督は「Last Flag Flying」を再び取り上げることを決め、脚本の書き直しに入った。決め手となったのは物語の時代設定を“現在”ではなく、象徴的な時代に据えることだった。リンクレイターが選んだのは、米軍がサダム・フセインを捕まえた2003年12月。「あの時代に舞台を設定してみようと考えたのは、誰もがあの瞬間なら覚えているかもしれないと思ったからです。」
新しい脚本を携え、リンクレイター監督と彼のチームは、ドク、サル、ミューラーの3人を誰が演じるかという難題に取り組むことになる。「この年代にはとても多くの素晴らしい俳優がいます」と語る監督。そうして白羽の矢が立ったのは、スティーヴ・カレル、ブライアン・クランストン、ローレンス・フィッシュバーン。いずれもオスカーにノミネート経験のある実力派の俳優たちだ。

初となる、リンクレイター監督作品に飛びついた
スティーヴ・カレル

ドク役のスティーヴ・カレルは、リンクレイター監督の作品と知ってこの仕事に喜んで飛びついた。本作の脚本もカレルにとって大きな魅力だった。「人間関係の妙を描いたロードムービーだと思います。ある意味、大学の同窓会のような映画かもしれません。30年間まったく会っていなかった旧友3人が、悲劇的な出来事をきっかけにまた一緒になる。彼らは自分たちの関係を見つめ直し、30年後に大人として今の自分たちを考え直すのです。この3人の男たちの相互関係にとって、ある意味、戦争はただの背景に過ぎない。そこに僕は魅力を感じました。僕は従軍したことがないので、ドクを演じるために、自分と父とかなり話し合いましたね」とカレルは言う。
演じるドクというキャラクターに控えめな雰囲気を与えながら、カレルは彼がサルやミューラーにとって“弟”のような存在だったと考えた。「彼ら二人はベトナムで、自分たちとは違う雰囲気のドクの面倒を見てくれていたのです」とカレルは語る。また本作の物語が紐解かれていく過程で、彼ら3人を今でも悩ます当時の出来事が浮かび上がる。ある過ちの結果、ドクは2年間を海軍刑務所で過ごした。この過去がドクの人生の中に暗い影を落としている。
リンクレイター監督は「ドクはとても難しいキャラクターですが、スティーヴは大きな人間性をもって演じています。だから私たちは彼の旅に入り込むことができる。最初にスティーヴと話した時、『これはまさにドクの物語だし、とても難しい、複雑な役だ』と伝えました。でもスティーヴは見事に演じきってくれました」

本作のオファーに、休暇を返上して参加した、
ブライアン・クランストン

6つのエミー賞に輝き、日本では主演作「ブレイキング・バッド」が人気のブライアン・クランストンは、サル役のオファーを受ける前、休暇を取る計画を立てていた。だが本作の魅力に抗しきれず出演を決意する。
クランストンは言う。「リチャードが勇気ある大胆な映画を作る監督だということは知っていますが、僕はいつも物語に惹かれて作品を選んできたので、まずは題材を見たかったのです。その点、『30年後の同窓会』はあらゆる基準を満たしていました。それに僕はダリル・ポニックサンと『さらば冬のかもめ』の大ファンでしたから。さらにスティーヴ・カレルとローレンス・フィッシュバーンが参加すると聞いて、『素晴らしい。ぜひやりたい』と答えたんです」
この物語は無鉄砲な戦友たちがドラマチックな摩擦を巻き起こし、ユーモアに油を注ぎ込む。「彼らは互いに『愛している』なんて言うような男たちではありません。ハグする必要もありません。『さあ、飲みに行こうぜ!』という感じです。サルという男に関しては、自分の本当の感情を他人に見せるのは心地良くないと思っている。だから彼はアルコールでそれを抑え込むのです。彼は自分のことをパーティーの主役だと思っているけれど、この旅を通して心を開き、本当に大切なのは友情だということに気づいていきます」
リンクレイター監督は、カレルの抑えた人格とは対照的に、クランストンに大げさで派手な演技を要求した。「役者のイメージからいうと、みんなはスティーヴのほうが愉快な男で、クランストンがもっとドラマチックな男だと思うでしょう」と監督は言う。「でも、この映画では、ブライアンが愉快でクレイジーなボス、スティーヴが部下なのです。ブライアンはカメレオン俳優で、役に入り込み、キャラクターの中に埋没し、まったく違う誰かほかの人間になり切ることができます。『30年後の同窓会』で、ブライアンはサルに素晴らしいエネルギーと独創性をもたらしてくれました」

ミューラー役には、リンクレイター監督が思い描いた、
ローレンス・フィッシュバーン

ベテラン俳優ローレンス・フィッシュバーンは、リンクレイター監督がミューラー役に思い描いた唯一の俳優だった。監督はこう言葉を添える。
「ローレンスと話をした時に、『私は実生活で海軍にいたことはありませんが、3年間、フィリピンで『地獄の黙示録』(79)を撮影していた時に、大勢の兵士たちに囲まれていました。“ウーラー! センパーファイ!(永遠の忠誠を!)”』と彼が言ったのです。彼は『友よ、風に抱かれて』(87)などのような軍隊映画にもいくつか出演し、兵士を演じた独自の歴史がありますしね。彼が演じるミューラーが退役軍人であることを疑う人はいないでしょう」
フィッシュバーンもまた、この作品に惹きつけられた理由の一つに『さらば冬のかもめ』との関連を挙げる。「私が成長期に観たあの風変わりな1970年代の映画にどうつながっていくのか、その歴史に興味をそそられたからです。理由のもう一つは、本作が二つの異なる戦争の退役軍人を扱っていること。ベトナム戦争の退役軍人3人と、イラク戦争の若き退役軍人チャーリー・ワシントン兵長(ドクの亡き息子の戦友)です。彼らには多くの共通点があります。私にとってこの映画は、これらの戦争から戻ってきた人たちがどんなことに直面しなくてはならなかったのか、それを示す素晴らしいチャンスだと思えたんです」

本当の絆を作るためのに名優たちも集結した、
3週間に及ぶリハーサルの日々で、脚本は何度も書き直された

撮影開始に先駆けて、リンクレイター監督は、カレル、フィッシュバーン、クランストン、若いチャーリー・ワシントン兵長を演じるJ・クィントン・ジョンソン、ウィリッツ大佐を演じるユル・ヴァスケスとともに、ロサンゼルスで数週間のリハーサルをおこなった。
監督の前作『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(16)にも大学野球部員のひとりとして出演したジョンソンはこう語る。「リンクレイター監督の素晴らしいところは、今回の映画でも、『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』の時とほとんど同じスタイル(事前にリハーサルで芝居のアンサンブルを固めていくやり方)を貫いていることです」
カレルは撮影前にリハーサルするチャンスを得て感謝した。「リハーサルなんて長いことやっていませんでした。リチャード、ローレンス、ブライアン、そしてそのほかのキャストと一緒に机を囲んで脚本の本読みをやるのは、とても楽しかったです」
リハーサル期間はまた、主演俳優たちとリンクレイター監督にとって、互いに知り合うチャンスでもあった。「ただ一緒に過ごし、互いを知ろうとするだけで素晴らしい」と監督は言う。「リハーサルは、脚本を読み合わせ、質問し、キャラクターの過去を探るといった演技エクササイズだけの場ではありません。彼らは全員、非常に知的で、キャラクターそれぞれの現実に興味があるため、私たちはそこを強化しました。それに俳優たちが出してくるものを基にして、私はこの期間中に何度も脚本の書き直しを繰り返したのです」

晴れると撮影隊は屋内に引っ込む
曇り空の中でも撮影の日々

2016年秋、32日間の撮影が始まった。リンクレイター監督と製作のジンジャー・スレッジは、撮影のシェーン・ケリー、衣装のカリ・パーキンス、プロダクションデザイナーのブルース・カーティスといった長年のコラボレーターに協力を求めた。「私は何年もの間、自分の頭の中でこの映画を何度も撮影してきたから、そのイメージを的確に感じ取ってくれる人たちが必要でした」

リンクレイター監督が高評価を得た『6才のボクが、大人になるまで。』(14)を35ミリのフィルムで撮影したカメラマンのシェーン・ケリーは、『30年後の同窓会』ではパナソニックのバリカム・ビデオリグに持ち替えて撮影した。常にわびしさを誘う荒涼とした天候を含め、映像が本作の心の状態を映し出している。「この映画には確かな質感があり、撮影だけでなく、プロダクションデザインを含めた全体的な感覚が、雨や12月の寒空のようなわびしいムードを表現しています」とリンクレイター監督は説明する。「太陽が出ると撮影隊は屋内に引っ込みました。雨や曇りで屋内のセットに入るほとんどの映画とは正反対ですね」
撮影現場でのリンクレイター組は、監督が支配者として君臨するのではなく、柔らかな民主主義が採用されているのが特徴だ。「セットでの監督は、俳優だけでなく、スタッフ全員に仕事に対する自由を与えていました」とフィッシュバーンは振り返る。「僕たちは毎朝20分間、監督のトレーラーに集まり、その日の大切なシーンについて話し合い、脚本を読み、アイデアを出し合いました。長い時間ではありません。監督は自分の能力に自信をもち、そのほか全員の能力にも同様の自信を持っていました」

30年前の事件で心に傷を抱えた男たちの旅は、 ユーモアと悲劇が
並列し、リンクレイター監督のテイストを存分に味わえる仕上がりに

この映画は、悲しみに暮れる父親を通した男たちの旅を描きながら、そんな中にも明るい瞬間がたくさん訪れる。ユーモアと悲劇を並列させるやり方は、リンクレイター監督が以前の映画でも取り入れてきた方法である。「それはとにかく、私の世界観なのです」と監督は言う。「私は人生をダークコメディだと考えています。悲しいけれど、その上にユーモアがある。私はこの映画のキャラクターたちが大好きです。彼らが人生を生きる姿を見たいと思ったのです」
戦時下で友情が築かれ、時の流れとともに薄らいでいく。『30年後の同窓会』もまた、リンクレイター監督の多くの映画同様、観客自身に結論が委ねられている。リンクレイター監督は言う。「人々には、この映画を観て、それぞれ違った反応をしてほしい。いろいろ考えられるはずです。戦争に向かう国、犠牲、それが私たちの文化や世界にとって何を意味するのか。私は、人々にこれらの問題について複合的な視点で考えてもらえるなら、いつでも新しい映画を作る価値があると考えています」

INTERVIEW

インタビューf

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リチャード・リンクレイター監督インタビュー

Q.本作の実現に長い時間を要したのは
本当ですか?

A.そうです。私たちが脚色したのは10年以上前の話です。イラク戦争はその当時、傷口が開くほど、新しい記憶でした。だから、誰もこの話題に触れたいとは思わなかったのです。これが伝統的な戦争映画でなくても、まだ何かを引きずっていました。でも、そういうものは決して消え去ることはないのです。このキャラクターたちと、彼らが経験したことへの私の愛情は、ずっと私の心に留まっていました。この作品は後回しになりましたが、私は忘れませんでした。私は原作のダリル・ポニックサンと話し合うようになりました。そして「映画を作れる日は必ず来る」と言いました。彼は「まあどうなるか見てみよう」という感じでしたね。案の定、戻ってきました。条件が見事に揃った特別な瞬間でした。創案に10年を要する強みは、頭の中で映画を作る時間があるということです。時が熟すまでに、全部頭に入っている。それに、ありがたいことに映画を作る環境も整っていました。だからこそ、特別な作品になったのです。

Q.キャストについて聞かせてください。

A.ローレンス・フィッシュバーン、ブライアン・クランストン、そしてスティーヴ・カレルが主人公です。彼らは一緒にいると、特別で、完璧でした。本当に尊敬し合っていました。彼らとの仕事はとても楽しかった。彼らがトップの俳優たちだということを実感しました。本当に非常に高いレベルで仕事をしている感覚でした。この映画はとても私的な、キャラクターベースの映画です。でも共鳴させ、うまくいかせるためには、彼らの役への強い思い入れが必要でした。

スティーヴ(カレル)は、物凄いキャリアだし、彼とは何度か会ったことがあり、彼が発する活力が好きです。とても思慮深い人だとわかっているし、「彼がドクかもしれない」と思いました。脚本を送って、「カレルが話したいらしい」と返事がきました。私は「素晴らしい。ぜひ話しましょう」と答えました。それから私たちはドクというキャラクターを通して自分たちの感情を見るようになりました。私がすべての答えをもっているわけではありません。たとえばスティーヴから「なぜドクは彼らを訪ねるのか? ずいぶん経っているのに」と聞かれた時も、私にはこれといった答えはなかった。ただ「わからない。ドクは自分でもなぜそうするのか、何をするのか、わかっていないかもしれない」と答えました。すると彼は「それは面白い。いいですね!」と言いました。

Q.絆を作るプロセスにとって
リハーサル期間は不可欠でしたか?

A.リハーサルは彼らが互いを知る貴重な時間になりました。皆、一緒に仕事をしたことがなかった。全員、一緒の仕事を楽しみにし、お互いを本当に尊敬していましたが、リズムをつかむには、時間が必要だったのです。良い俳優はごまかすこともできます。セットに入って、誰かと会って、想像する。でも私はそこで生きている感覚、リアルな感覚がほしかったのです。彼ら自身のユーモアやテーマがほしかった。彼らが昔からの友人だというリアルな感覚がほしかった。そうすれば、観客もそれを信じられる。彼らはとても深い絆で結ばれていたと思います。

Q.この旧友たちを再び集めたのはある特別な理由でしたが、彼らの再会にはどこか普遍的なものがあります。

A.そう願っています。彼らは彼ら自身の再会を果たしますが、映画自体の力はとても大きい。ですから、観客は、観客自身の旧友との再会を果たしているように感じて欲しいですね。

Q.初めてではないですが、監督は男同士の会話にとても興味があるようですね。このテーマに戻ってきたのはどうしてですか?

A.それは、群れの心理とか、男の絆とか、男らしさとか、男のつながりの持ち方のようなものです。それは時代を超越しているし、そこには何かがある。特別な何かが。男は家庭に休息を求めるから、家庭のことについて座って話したりしたくないのです。男たちは、若い時、特に軍隊にいたり、従軍して協力し合ったことがあると、男の絆が自然に蘇ってくる。年を取れば取るほど、絆をもつことは難しくなる。何となく消えてしまうのです。

Q.常にリハーサルはおこないますか?

A.ええ、それは映画をうまくいかせる鍵のようなものです。セットでの撮影前に場面をやってみることができる。俳優はちゃんと準備ができている。セリフも覚えているし、監督が俳優のために用意した場所です。だから、リハは役に立ちます。当たり前のことですが、私はうまくいくことに興味はありません。それよりも、俳優たちと一緒に時間を投じて何か新しいものを見つけたいのです。アルフレッド・ヒッチコックのような監督が、リハを必要としなかったのもうなずけます。映画はあらかじめ決められていますから、もうすでにイメージされているものを表現するだけなら、リハーサルは時間の無駄です。撮影だけすればいい。でも私のように一歩下がってみたい場合、「エンディングがうまくいくかわからない。でも予感がする。この時点ではこれが精いっぱいだが、これでいいのか、これがこの映画の望むことなのか、わからない」となる。だから、俳優を通して何かにつながったり、私と俳優のために新しいものを見つけようとすることが、私のやり方なのです。常にいい方向に向かいます。明日のほうがもっといいアイデアが出るかもしれない。私は映画製作を通してそういう方法をとります。誰かがいいアイデアを出すかもしれない。わからないけれど、そういうプロセスが私は好きだし、私はプロセス指向の人間なのです。